マヨヒガへの道

東方関係、主に霖之助と少女達のお話。時々旅行記。

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犬走椛、妹になるの巻

詳しい経緯はこちらから。


いぬふともみもみ。




 犬走椛は独り、ため息を付いた。
 だいたい彼女は星の巡り合わせが悪いらしい。

 幼い頃は欲しかった物が目の前で売り切れる事が多々あった。
 警備隊に入隊した時は、自称最速の烏天狗に付きまとわれた。
 初めて一人で警備に出向いた時は、酷い夕立に見舞われた。
 守矢の神社が山に引っ越してきた時は、博麗の巫女にボコボコにされた。
 札付きのワルに絡まれてた女の子を助けた翌日、男と間違えられて恋文を渡された……等々。

 いや、最後のは少し違うのかもしれないけど。

「はぁ……」

 そして今日もまた。

 彼女の千里眼が捉えているのは一人の少女。
 銀とも、灰色とも言える色合いの髪を後ろで束ね、平安の頃を思い起こさせる様な白装束と紫袴に身を包んだ小さな少女。
 その姿は烏天狗達の新聞で紙面を賑やかした写真と一致する。

 確か、物部布都という名前だっただろうか?
 恐らく間違いでは無い筈なのだが、少し自信がない。

 と、いうのも。

 写真では頭にちょこん、と烏帽子を乗せていたのだが、ここから見る限りではそれがどこにも見あたらない。

 はて、これはどういう事だろうか?
 もしかしたらよく似た別人では無いのか?

 しばらく考えていた椛だが、本来の職責を思いだし、ハッと我に返る。
 そう、そんな些細なことはどうでも良いのだ。
 問題は、その彼女がコチラに向かって一直線でやって来る事なのだから。

 しかし、やはり少々気が重い。
 椛が責務を果たそうとすれば、必然的にあの子と接しなければならない。
 もし、彼女が只の人間であったならば、椛は躊躇する事無く職務を遂行しただろう。
 しかし、一度は幻想郷で異変を起こした一味である彼女と接して、無事に済むとは微塵にも思えない。

「はぁ……」

 これで三回目。
 運の悪さは椛自身も十二分に把握している。
 それでもなお、彼女が職務に忠実となる事を選択したのは、褒め称えるべきだろう。

 しなやかな脚で軽く地面を蹴って、その身を宙に預ける。
 願わくば、彼女が大人しく帰ってくれますように。






「あんくるほ~るど、ばっくぶり~か~、じゃ~まん、よんのじ、らっりっあぁっと~♪」

 足取り軽く、元気良く。
 天気は晴朗、気分は上々。

「こぶら~ついすと、ちょ~くすり~ぱ~、きっんっにっくっどらいっばあ~」

 喉も快調、リズム良く。
 今日は見事なお散歩日和。

「止まれ!」
「おお?」

 はてさて、そんな上機嫌の布都の目の前に降り立つ、白いふわふわした固まり。
 だが、その固まりは、お気楽そうな布都とは対照的に、険しい表情を突きつけてくる。

「これより先は我ら天狗の領分である!」

 目は口ほどに物を言う、ということわざの通り。
 口上だけでは無く相手の目をキッと睨みつける事で更に威嚇の意志を示す。

「この先、一歩でも進めば武を以てして全力で排除する」

 例えば。

「速やかに、此の場から引き返せ!」

 これが里の人間であれば、直ぐさま尻尾を巻いて逃げ出したに違いないだろう。
 だが、しかし。

「ふむ、あの烏の言った事は本当であったな」

 この度の侵入者には、椛の威嚇など全く堪えていない様子。

「うむ、出迎えご苦労である」

 それどころか、薄い胸を張り尊大に応える始末。

「……」

 黙ったまま侵入者を睨みつける椛。
 はて、この出迎えというのは、いったいどういうつもりなのだろう?
 本気で言っているのか、はたまた気の利いた皮肉のつもりなのか。

「聞こえなかったのか!いますぐ此の場から引き返せ!」
「お主こそ何を言っておるのだ?」

 すっとぼけた表情で首を傾げる布都の様子を見て、椛は確信する。
 どうやら、この侵入者は本気で言っているつもりらしい。

「もう一度言う」

 幸か不幸か。
 椛には暇な時間がたっぷりあるのだが、こんな浅はかな侵入者の戯れ言に付き合っている暇はない。

「即刻、此の場から――」
「のう、お主よ、これが目に入らぬのか?」

 だがしかし。
 椛の最後通牒は布都の手によって見事に遮られてしまった。

 そして彼女がチョイチョイと指さすのは、髪と同じ色をした可愛らしい犬耳。
 ただしそれは椛のものとは異なり、作り物であるのが見て取れる。
 目立ちにくい色合いではあるが、髪の隙間から覗くヘッドバンドがその証左だ。

 だから彼女は烏帽子を被っていなかったのか、と椛は思い至ったのだが今は全く関係ない。

「これを着けておれば山から迎えが来るのであろう?」
「……はぁ?」

 当然だと言わんばかりの顔をする布都の説明に、椛は口をあんぐりと開ける。

 これはいったい何の冗談だろうか?
 普段なら軽く笑い飛ばしているところなのだが、彼女のまっすぐな瞳を見ているとこっちが間違っているような気がしてくる。

 いや、待て、待つんだ犬走椛。
 もしかして、そのような通達があったのではないだろうか?
 此方側に何らかの落ち度はないのか?
 今朝の点呼はどうだったか?

 自らにそう言い聞かせ、記憶をたぐり寄せる。

「……」

 無論あるわけが無い。
 今日もいつもと変わらぬ点呼を受けて哨戒に出た。
 仮にその様な事があったとしても、もっとまともな――そう、手形のような物を使うに決まっているではないか。

「と、言うわけでだ、ほれ、早く山へ案内いたせ」
「ふざけるな!」
「むむ、なんだと!?」

 危ない危ない。
 危うくこの侵入者の口車に乗せられるところだった。

 椛は内心でホッとため息をついてから、布都の様子を伺う。

 心底驚いたのか目を大きく開き、口をわなわなと震わせている。
 この様を見る限り、嘘をついている訳では無さそうだ。
 恐らく件の話を信じて此処にやってきたのだろう。
 しかし、一体誰からこの話を?

 ふと、先ほど彼女がつぶやいた烏という言葉が蘇る。
 それと同時にあいつの憎たらしい笑みが椛の脳裏をかすめる。

「……速やかにこの場から立ち去れ!さもなくば」

 それを打ち消すように手にしている得物を一振り。
 そして威嚇射撃代わりに薄く弾幕を繰り出す。

「むむっ!」

 呆然としていた布都だが、視界に入った弾幕でハッと我に返る。
 そして、子鹿の様に軽やかに舞いながら弾幕を去なし、椛との距離を取る。

「それならば我の力をみせてやろうぞ!」

 椛の弾幕にやる気を見せる。
 思いの外、骨があるようだが相手はまだ子供だ。
 そう本気になることも無いだろう。

 それでも椛は盾を構え直し、布都の弾幕にその身を備える。

 鎧袖一触。
 少々痛い目にあえば、この子だって尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

 そう軽く考えていたのだが。




「はっはっは!どうだ、思い知ったか!」

 高らかに笑う布都の足下には、大地と抱擁する見るも無惨な椛の姿が。

「だがお主の筋は悪くないな」

 椛の側にしゃがみ込んだ布都が、やはり尊大な態度ではあるが椛に好評を下す。
 椛の敗因は布都のことを完全に侮っていたのが原因だろう。
 あれよあれよと言う間に、気が付けば離脱するタイミングすら完全に失っていた。

「どうじゃ?我の弟子にならぬか?」
「……お断りします」

 大地との抱擁にも飽きたのか、椛はむくり体を起こしその場に座り込む。

「ふむ、そうか?残念であるな」

 眉尻の下がった布都と目が合う。
 どこか罪悪感を感じるその表情に、椛は心当たりがあった。

――お腹を空かせた独りぼっちの子犬。

 もっとも、それはほぼ間違いなく頭に着けている耳の所為なのだけれど。

「ふぅむ」

 一方の布都はというと、どうやら椛とは別の事を考えていたらしい。

「似ておるの」
「えっ?」

 にぱっ、と余りに無防備な笑みを浮かべる布都に椛は虚を突かれる。
 だからだろうか?

「我のこの耳と、お主の耳の事だ」

 不意に伸ばしてきた布都の小さな手が、椛の白い耳に触れるのを許してしまったのは。

「お揃いだな」
「なっ!」

 何をする、と手を払いのけようとしたものの、無邪気にはにかむ布都の姿に動きを止めてしまう。
 それがいけなかったのだろう。

 すっかり毒気を抜かれてしまった椛は抵抗を諦め、頭を垂れる。
 ぺたんと、力無く伏せられた耳と耳の間を布都の手が無遠慮に動き回る。

「お?」

 所在無げな尻尾がぱたりと一振り。
 どうもこの子と一緒に居ると調子が狂う。

「ほう、そうかそうか。うむ、そうだな」

 そうこうしている内に、布都がまた一人で勝手に頷き始めた。
 それと同時に頭に乗っかっていた温もりが消える。
 ハッと我に返った椛が面を上げると、ニカッとした笑みを浮かべる布都と目が合う。

「お主――」
「あれぇ?もみもみ、こんなところで休憩?」

 だが、布都がその思いつきを口にするよりも、少しだけ早く空から舞い降りてきた一つの人影。

「違います」

 スマートに着地したその見覚えのある人影――姫海棠はたて――に椛は否定の言葉を返す。

「うん、知ってる」

 清々しいまでの笑みで椛の回答を軽く受け流す。
 分かってるなら――とは思っていても、決して椛はそれを口にする事は無い。
 どうせはたてに何を言ったところで聞きはしないのだから、言うだけ無駄である。

「それで?この子は……」

 はたてが改めて椛へ問いかけ、途中で何か気が付いたのか言葉を飲み込む。
 そして、椛と布都の顔を一瞥しニヤリと口角を上げる。

「……あぁ、そっか、そういう事ね!」

 人を小馬鹿にしたような笑みで一人で勝手に納得し始める。

 今回の侵入者といい、はたてといい。
 どいつもこいつも似たような連中ばかりだと椛は内心で独りごつ。
 そしてはたてが次に言わんとする事はおおよそ見当が付く。

「もしかしてまた『お姉さま』とか言わせてたの?」
「違います。それにまたって何ですか、またって」
「いやほら、この前も恋文を貰ったらしいじゃないの?」

 椛の予想通り。
 これは少し前に天狗達の紙面を賑わせたネタだ。
 しょっちゅうそんな事が有る様な書き方をして煽るのが烏天狗流。
 だいたい椛が女の子に迫られた事は一度しか無い。

「はぁ……もういい加減にして下さい」
「えぇ?良いじゃない、椛お・ね・え・さ・ま」

 冗談だとは分かっているのだが、はたての口調に苛立たしさを感じる。

「だから違――」
「お主は何を勝手な事を言っておるのだ!」

 今まで黙っていた布都が唐突に立ち上がり、はたてに指を突きつける。
 その表情は先程まで椛と話していた時とはうってかわって、些か怒ったようにも見える。
 一体何が気に入らなかったのか、あまりの変わりように椛とはたては呆然と布都を見つめる。

「出し抜けに現れたかと思えば、好き放題にぺらぺらと」

 なるほど、そういう事かと椛は独り納得する。
 烏天狗に限らず、見ず知らずの相手にいきなりそんな関係かと疑われて喜ぶ者など居るはずが無い。
 よっぽど変わった趣味の持ち主か、はたまた元々そのつもりで無い限りはそれは当然の反応だ。
 布都の怒りは少々大げさすぎる感はあるが、それだけ不愉快に思ったのだろう。

「よく聞け!そこの天狗よ!」

 だから、ほんの少しだけ、撫でられた所が寂しく感じ――不意に背後から何かに暖かいものに包まれた。

「我こそがこやつの姉であるぞ!」
「「……はぁ?」」

 違った。
 甘かった。
 予想以上だった。
 それはもう徹底的に。

「全く、戯言を申すで無い」

 後ろから包み込むように椛に抱きつく布都。

 そう。
 布都は椛と姉妹扱いされたから怒ったのでは無く、妹扱いされたから怒っていたのだ。

「うん?二人ともその様な間抜けな面をしてどうしたというのだ?」
「あー……」

 ようやくはたてが言葉にならない声を発する。
 彼女とて、冗談のつもりだったのだが、まさかそういう事になるとは夢にも思っていなかったのだろう。

「えっと……お邪魔してごめんね」
「え……ちょちょっ!?」

 すっかり動転しているのか、無神経な烏天狗達にしては珍しく要らぬ気遣いを見せる。

「うん、大丈夫よ椛……分かってる分かってるから」
「いや、分かったって何が分かってるんですか!?」

 絶対に何か勘違いしたままと分かる表情で、後ずさりして二人から距離をとるはたて。
 しかし、それでも懐から携帯を取り出し構えたのは流石と言うべきか。
 ピロリ~ンというシャッター音と共に、飛び立とうとするはたてを捕まえようと椛が手を伸ばす。

「えっと、その子と椛の関係?」
「違いますから!っていうか、何で写真をしっかり撮るんですか!?」

 だが、あと一歩遅かった。
 伸びきった手が空しく宙をかく。

「それじゃねお二人とも!お幸せに!」
「待ってぇぇぇ!」

 妖怪の山に響き渡る白狼の咆哮。

 後日。
 人気の無い時間帯にはたての元へ弁明に向かった椛が自称最速の天狗のカメラに収められた。
 後に逢い引き写真として記事にされた事件があるのだが、それはまた別のお話。
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  1. 2012/02/23(木) 22:02:59|
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