マヨヒガへの道

東方関係、主に霖之助と少女達のお話。時々旅行記。

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Non Stop Girls

早苗さんの事は嫌いじゃありませんよ?

(霖之助 にとり)



「それじゃ霖之助、先に行ってるねー」

 店に飛び込んで来るや否やいきなりこれである。
 背負ったリュックを飛び跳ねさせて、あっと言う間に視界から消えていく。
 茶の一杯を出すつもりは更々無いが、もう少し落ち着いて行けば良いだろうに。

「……道中でお話は聞いていましたが、いつもこんな感じなのでしょうか?」

 あっと言う間に裏手へ回るにとりの後ろ姿を、道中を共にした早苗が唖然とした様子で見送る。

「最初はそうでも無かったんだがね。ここ最近は『アレ』が完成間近だからか、いつもあんな感じさ」
「なるほど……それにしても、まさかこっちで『アレ』が走る姿なんて想像も出来ませんでした」
「ふむ、その様子だと向こうではかなりありふれた存在みたいだね」

 そういえば彼女は元々、外の世界の住人だったか。
 良くも悪くもこちらに染まりきっているので、すっかり頭から抜けてしまっていた。

「はい、私もそれなりに乗っていましたから」
「なるほどね、それなら今度は君に乗り方を教えて貰おうかな」
「あはは、私でよければいくらでもお教えいたしますよ」

 ああ、そうだ。
 今でこそ、彼女は外の世界の事を、こういう風に笑いながらいろいろと教えてくれるのだ。
 だが、こちらに移り住んできて日の浅い時には、この店をあまり訪れたく無かったらしい。

『外の世界の物を見ると、どうしても色々思い出してしまいそうだったんです』

 彼女とて、今でも外の世界に未練が無い訳ではないだろう。
 何か思い残した事の一つや二つはあるだろう。
 それなのに、もう、その様子を微塵にも見せる事がない。

「あれっ?でも燃料はどうするんですか?」
「あー……今のところは残っている分でどうにかするつもりなんだが、その後はまだ見通しが立ってない」

 ふと脳裏に浮かぶのは不吉な笑みを浮かべる日傘の妖怪少女。
 彼女を頼れば燃料の入手も容易いが、あまり頼りたくは無い。
 とは言え。

「そうですか……」

 少し残念そうな早苗の様子を見ていると、あの妖怪に頼るのも視野に入れておいた方が良いかもしれない。
 外の事を色々と教えて貰ったのだ。
 もし彼女も色々と吹っ切れたのであれば、少しばかりのお礼としてそういう事をするのも悪くは無いだろう。

「さて、君はいつものこれでいいかな?」
「あ……はい、ありがとうございます」

 そんな事を内心で考えつつ、彼女が求めているいつもの物をそっと机の上へ置く。
 そろそろ来るだろうと思って、予め用意していた物だ。

「似たような物も多くあるけど、やはりそれが一番なのかい?」
「ええ、やっぱこれが一番良いです」
「ふむ、僕にはどれも同じように見えるのだがね」

 代金を支払い、その手で『ハンドクリーム』とやらを懐へ納める早苗に訪ねる。
 どれも同じ効用のはずなのだが、違いがあるのだろうか?

「これでも結構違ったりするんですよ。合わない物を使うと余計に肌が荒れる事もありますし」
「なるほど、同じように見えても相性があると言うことか」
「いえいえ、そこまで大げさなものじゃ無いですよ。ただ、女の子はそういう所にも気を使うんですよ」
「そんなものかね」
「そんなものですよ」

 なるほど、わからん。

 人妖問わず、異性というのは全く理解できないものである。



「あれ?もう早苗帰っちゃったの?」
「ああ、帰って色々とやることがあるらしい」

 正確に言うと僕が追い返したようなものだが、それを言う必要もあるまい。

――「綺麗な指を触ってみたいと思いませんか?」
 とか。
――「にとりさんの事をどう思ってるんですか?」
 とか。
――「そろそろ私にも常連割引をしてください」
 などと根ほり葉ほり聞いて来るだから辟易する。
 まったく、逞しいと言うべきか、図々しいと言うべきか。

「あちゃ、悪いことしちゃったなぁ」
「ここに着くや否や颯爽と放って置いた癖によく言うもんだ」
「はは、それはそれ、これはこれだよ」

 同じ図々しさならにとりの様に、僕にあまり迷惑をかけない類にしてもらいたい。

「それで、どこまで進んだんだい?」
「もう殆ど完成だよ、あとはチェーンとブレーキワイヤーの張り具合を調整するだけさ」

 手にしているスパナで『例の物』を小突く。
 彼女が組み立てているのは『カブ』と名付けられた、外の世界でよく使われている一人用の乗り物だ。

「それにしても、本当にここまで来るだなんて思っても見なかったよ」
「む、何よそれ。私じゃ無理だって思ってたの?」
「そうじゃないさ。ただ外の世界の技術は僕らの知っているものとは全く異なる技術だからね」

 自らが持つ技術とはまた異なる考えよって積み重ねられた技術。
 それらを学び吸収する事はとても難しくもあり、とても楽しい。

「ふふん、そこは私の腕ってもんよ」
「ああ、大したものだ」
「うわっ、霖之助が素直に誉めるだなんて……なんか変なものでも食べたの?」
「失礼な、僕はこれでも「痛っ」」

 にとりの軽口に反論しようと仕掛けたところで出鼻をくじかれる。

「大丈夫か?」
「あ、うん。平気平気」
「ちょっと見せてみろ」
「わわっ」

 油で黒く汚れた右手を引き寄せ、傷口の様子を診る。

「ふむ、念のため中で手当をしておこうか」
「い、いいよ。大した怪我じゃ無いんだから」

 チェーンとギアの間で挟まれたのだろう。
 にとりの言う通り出血量は大したこと無いが、指先が油で黒く汚れているのも相まって酷い怪我に見える。

「大したことは無くても血が出ているじゃないか」
「すぐに止まるからさ、大丈夫だってば」

 遠慮をしているのか、はたまた大口を叩いた直後に怪我をしたのが恥ずかしいのか。
 さっきから僕の手をどうにかして振り解こうとしている。
 だが、そんな些細な事はどうでも良い。
 それよりも、もっと大切なことがある。

「もしそいつが血で汚れたらどうするんだ」
「……ああ、そっちね」




 僕の説得に観念したのか、大人しくなったにとりを店内の椅子に座らせ、埃を被った救急箱を開ける。
 昔は魔理沙がしょっちゅう怪我を作っては、傷の手当てをさせられていたな。
 近頃は滅多に無くなってしまったが、それでも年に一度くらいは包丁で指先を切る程度の怪我をする。

「ほら」
「い、いいよ自分でやるからさ」

 準備を整えた所で怪我をした右手を差し出すように促すが、それに応える風では無い。

「それに、えーと。ほら!霖之助の手も汚れちゃうからさ」
「後で手を洗えば済む事じゃないか。それに、ここまでお膳立てしたんだ、このまま僕が手当をした方が早いだろう?」
「うー、そうだけどさぁ……」

 歯切れの悪い返答をしながら傷口を隠す様に胸の前で両手を握っている。
 一体何を遠慮しているのか知らないが、そっちがその気ならこちらから揺さぶりをかけさせて貰おう。

「早くしないと、カブを整備する時間が無くなるんじゃないのかい?」

 恐らくではあるが、にとりは完成間近の物を目の前にして何かを我慢できる性分では無い。

「それに僕にだってやることがそれなりにあるんだ」
「う……」

 本当は明日でも明後日でも、何時でも良いような用事しかない。
 大人げないとは思いつつも、なかなか言うことを聞いてくれないのでついつい張り合ってしまう。

「ほら」

 二回目の催促で渋々といった感じではあるが、ようやく握りしめた掌を開いてくれた。
 差し出された右手の指先から既に血は止まっているので、後は綺麗にしてから傷口を覆うだけだ。

「っ……」
「染みるかい?」
「ん、だいじょうぶ」

 消毒液を染み込ませた脱脂綿で指先の汚れを落としてから『絆創膏』なる物で傷口を覆う。
 無論こいつも拾い物ではあるが、手軽に傷口を覆えるので僕も重宝している。
 本来、再生能力の高い妖怪相手に、ここまでする必要は無いのだが、今回は治療目的で使うのでは無い。

「ねぇ」
「ん?」

 無論、血で汚れるのを防ぐ意味もあるが、正直なところ、傷口を覆っていないと作業中に物が当たって痛いのだ。
 他の所なら放っていただろうが、痛みによるストレスは耐えがたいものがある。

「やっぱりさ、霖之助も手が綺麗な子の方が良いのかな?」
「いきなりなんだい?」

 箱から絆創膏を取り出す手を取め、にとりの顔をのぞき込む。

「べ、べ、別に変な意味で聞いてるんじゃ無くて、ほら、私ってさ、がさつだから手が荒れたり汚れがついたままだった傷だらけだったりするじゃない?でも、髪とか身の回りとかそういう事に気を使った方が女の子らしいって天狗の新聞に書いてたんだけど、他の河童連中じゃ気にしない奴らが多くて、あんまりアテにならないし、そうしてみると早苗って手が綺麗じゃない?あ、手だけじゃなくて、髪も長くて綺麗だし顔も可愛いし、それにさっきも早苗に迫られてた霖之助も満更でも無さそうな風だったから、やっぱりその通りなんだろけど、だからって指先の傷や染み着いた汚れはもうどうしようも無いし、今からそういう事を気にするのも変な気もするし、それに私は早苗みたいに可愛くも綺麗でも無いしって、ああ、もう何言っちゃってるのよぉ……」

 息つく暇も無く、怒濤の勢いで繰り出される言葉に只々圧倒される。

「あはは、ごめん……気にしないで」

 言いたいことを言い切ったのか、はたまた冷静になったのか。
 先ほどの勢いとはうってかわって、力無くうなだれる。

「……」
「……」

 さて、どうしたものか。
 頭を巡らせながら、止めていた手当を再開する。

「君は自分の手が嫌いなのかい?」
「え?」

 包みから取り出した絆創膏の裏紙を少しだけ剥がし、再びにとりの右手を取る。

「……そんな事、考えたことが無い」
「奇遇だね、僕もそんな事を考えたことが無いよ」

 綺麗にした傷口にそっとあてがい、裏紙を剥がしながら指先に巻き付ける。
 こうする事によって粘着面に触れることなく綺麗に貼れるのだ。

「でも、僕はにとりの様な手には好感が持てるね」
「え?……ええ!?」

 傷だらけで、煤や油汚れが手の皺にまで染み込んだ、決して女の子らしいとは言えない手を見つめる。

「その手は一生懸命働いたから荒れたり傷だらけになったのだろう?」
「うん、働いたって言って良いかどうかは分かんないけど、いろんな道具なら作ったよ」
「ならそれで良いじゃないか」
「そ、そう、なのかな?」
「ああ、この手はいわば働き者の手だ、もっと胸を張ればいい」

 じっと見つめていた右手から目を外し、にとりの様子を窺う。
 ポカンと口を開け、呆気にとられたような顔をしていたが、僕と目が合った瞬間ニヤリと笑みを浮かべる。
 そして、今度は恥ずかしそうな表情で体をひねり、空いている左腕で胸を隠す仕草を見せる。

「……霖之助のえっち」
「どうして言葉通りに捉えるんだい……」

 やれやれ。
 だが、冗談が言えるぐらいならもう大丈夫だな。

「さて、休憩はこれぐらいにしてカブの整備を再開しようじゃないか」

 先ほどからずっと握っていた右手を離し、立ち上がる。
 今から再会すれば今日中に整備は完了する筈だ。

「霖之助」
「なんだい?」
「……ありがと」



 翌日。

 晴れ渡った青空にエンジンの軽快な音が響きわたる。

「ふっふっふっ、私の手に掛かればこんな物の一つや二つ、どうということはありません!」
「……あまり気合いを入れずに気軽にな」

 エンジンのかかったカブに跨り不適な笑みを浮かべる早苗。
 少し気合いの入りすぎた彼女に忠告するが。

「さぁ!諏訪の紅い流星と呼ばれた私の実力を見せてあげましょう!」

 あまり意味は無さそうだ。

「どうして早苗はあんなに気合いが入ってるんだろ?」
「僕に聞かれても困る」

 整備が完了したばかりのカブの試運転を経験者である彼女に依頼したのだ。
 だが、先ほどから不穏な事ばかり口走っている気がしてならない。

「……ん?」
「どうした?」
「いや、ポケットに何か……あ」

 スカートのポケットをゴソゴソと漁り何かを取り出す。
 僕が働き者と称したその手には、鈍色に光る二つのナット。

「それは?」
「えっと――確――ブレーキの―定――ト―」

 先ほどからやたらと空吹かしをするお陰で、にとりの声をうまく聞き取れない。

「ブレーキ?」
「うん。たぶん、怪我したときにポケットに突っ込んだままだったんだと思う」

 なるほど。
 差し詰め、あの時の怪我で動揺していたので、すっかり忘れていたのだろう。

「……ん?」

 ブレーキ。
 漢字で書くと制動装置。
 即ち、動きを制御するための装置だ。

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 つまり、何だ。
 あのカブは。
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  1. 2011/07/08(金) 22:18:36|
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