マヨヒガへの道

東方関係、主に霖之助と少女達のお話。時々旅行記。

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式、貸します

pixivに投稿してたお話。
それはまるで、泡沫の夢のような……






「式を貸して欲しいのですか?」
「ああ、もし支障が無ければお願いできないかい?」

 可愛らしいくも妖しい少女の姿をした紫が小首をかしげる。
 こう見えても僕より長生きだと言うのだから侮れない。

「そうね……少し待ってくださるかしら?」

 手に持っていた扇子をスウッと振り、スキマを呼び出す。
 断られるかと思っていたのだが、どうやら上手い事になりそうだ。

「紫様、お待たせ致しました」
「ご苦労様、今日の予定は何が残っているのかしら?」
「はい、先程結界の見回りを終えましたので、残りは紫様の身の回りのお世話のみです」

 結界の見回りは理解できるが、身の回りの世話というのは如何なものなのだろうか?
 これほど強力な式だというのに、非常に勿体ないではないか。

「わかりました、それでは明日までこの方の式として動きなさい」
「森近さんの、ですか?」
「ええ、そうよ。何か問題があるかしら?」
「はぁ……まぁ、紫様がそう仰るのでしたら」
「では、式の一部を書き換えるからこの中で待っていなさい」
「畏まりました」

 先程とは別のスキマへと飛び込む。
 それにしても、見た目からして禍々しいスキマへ良く飛び込むめるものだ。
 やはり慣れというものなのだろうか?。

「そんな簡単に書き換えられるものなのかい?」
「ええ、式を書き換えると言っても、霖之助さんを新たな主として登録するだけですから」

 宙に手をかざし、何かを操るかのように指先を動かす。

「そうそう、藍が知っている結界や外の世界の情報。
 それと、妖力の一部は封印させて頂きますわね」

 スルッと藍がスキマから出て来る。
 いつもの帽子を被って無い事を除いて、特に変わった様子は見られない。

「それではごきげんよう」

 藍が出てきたのとはまた違う別のスキマを開き帰っていく。
 こうも上手くいくとは正直、拍子抜けだ。

「さてと」

 気を取り直して藍に正対する。

「よろしくお願いします、ご主人様」
「ああ、こちらこそ」

 しかし、帽子を被っていないというだけなのに、雰囲気が変わって見えるから不思議なものだ。

「早速で申し訳ございませんが、私に名を付けて頂けますか?」
「名前をかい?」
「はい『八雲藍』という名は、スキマ妖怪『八雲紫』の式としての名前です。
 ですから、今はご主人様の式として私に名を付けて頂きたいのです」
「ふむ」

 なるほど、これはとても大切な事なのかもしれない。
 僕が彼女に名前を付けることによって、彼女の――式の本質を決めてしまう。
 名は体を表すとは正にこのことなのだろう。

「では『藍』と呼ばせて貰おう」
「畏まりました、ご主人様」

 他の名が思いつかなかった訳じゃない。
 ただ『八雲藍』という強力な式にあやかって同じ名前にしただけなのだ。
 それに、姿形が全く同じ人物を、いまさら別の名前で呼ぶのも難しい。

「それと、僕の式である間はコレを着けておいてくれ」

 桃色のビーズをあしらった髪飾りを手渡す。
 これも『八雲藍』にあやかる為の道具の一つだ。

「はい、畏まりました」

 本当は帽子であれば良いのだが、生憎とあの特徴的な耳が収まるような物がこの店には無い。

「……まるで犬蓼みたいですね」
「そう、かもしれないね」

 ……気付かれただろうか?

「えっと、こんな感じで如何でしょうか?ご主人様」
「ああ、似合っているよ」

 藍の金糸のような髪では、決して目立つ色合いでは無い。
 それでも、あまり自己主張をせず、なおかつ僕の式である事が分かればいいのだ。

「ありがとうございます。
 それではご主人様……」
「藍」
「はい?」
「何だ、その呼び方は止めてくれないか?」
「はぁ、お気に召しませんか?」

 確かに、僕は藍の主人だからそう呼んでも問題は無い。
 だが、魔理沙や霊夢達に変な風に誤解されて、ひと騒動起こされるのも正直面倒だ。

「僕の名前は知っているだろう?」
「森近霖之助、ですね。では森近霖之助様と……」
「……霖之助で良いよ」
「畏まりました、霖之助様」

 恭しく一礼。

「それでは霖之助様、ご指示を願います」
「それじゃ……」
「……」
「……」
「霖之助様?」
「あー、そうだな……」

――グゥ

「……」
「……夕餉を始めとした身の回りのお世話という事で構いませんか?」
「ああ、頼むよ。食材は好きなように使って構わないから」
「はい、畏まりました。
 それでは準備が整いましたらお呼びしますので、それまでゆっくりとおくつろぎ下さい」

 腹が減っては戦が出来ぬ。
 まずは腹ごしらえをして、それから彼女に何をさせるかじっくり考えることにしよう。




「霖之助様、夕餉の準備が整いました」
「わかった、すぐ行くよ」

 キリの良い所まで読み切ってからしおりを差し込み、居間へと向かう。

「霖之助様、こちらへどうぞ」

 卓の上に揃えられているのは椀が一つに皿が一つ。
 一汁一菜と質素だが、毎日食べるのであればこのぐらいが丁度良い。

「ご飯はこのぐらいで良いですか?」
「ああ、ありがとう」

 それに上げ膳据え膳というのも悪くはない。

「それではいただきます」
「いただきます」

 先ずは小皿に盛りつけられた白身魚へ手をつける。

「ふむ、これは酒蒸しかな?」
「定番の「あらい」にしようかとも思ったのですが、身体が冷えるかと思いまして……
 それと紹興酒とごま油がありましたので、中華風に仕上げてみました」
「なるほど……うん、こっちの鯉こくも七味が効いてなかなか」

 少し濃いめの汁がご飯と程よく合う。
 そして僅かに残っている紹興酒と七味のせいか身体の中から温まってくる。
 それにしても……

「どうしたんだい?」
「え?」
「箸が止まってるみたいだが」
「いえ……何でもありませんよ」
「……?」
「ふふっ」

 気にはなるが、とりあえずは目の前にある食事を片づけねばなるまい。

 温かい料理は出来る限り冷めない内に食べるべきだ。
 僕は、それが作ってくれた人に対する礼儀だと思っている。




「ふぅ、ご馳走様」
「お粗末様でした」

 箸を置いて一息つきながらお腹をさする。
 これだけお腹一杯食べたのも久しぶりだ。

「そろそろお風呂が沸く頃だと思いますので、もうしばらくお待ちください」
「ああ、ありがとう」

 藍の片づけを横目に食後のお茶を頂く。

「おっと」

 そうだ、忘れていた。
 おもむろに立ち上がり、寝室へと向かう。

「さて、どうしたものか……」

 生憎と、ここ以外に布団が敷けるような部屋が無い。
 となると、此処に二組敷くしかないのだが……

「ふむ」

 式とはいえ男女が同じ部屋で寝るのはあまり好ましいことでは無い。
 それに最近は天狗がよく店の近くを彷徨いているので、出来るだけ避けたい所ではあるが。

「仕方あるまい」

 店から衝立を持ってきて部屋の真ん中へ置いてから布団を敷く。
 あまり意味は無いだろうが何もしないよりはマシだろう。

「あ、霖之助様。
 こちらにおられたのですか」
「ああ、ちょっと寝床の準備をね」
「これは大変申し訳ありません。
 どの布団を使えば良いか分からなかったので、お聞きしようと思っていたのですが」
「なに、気にすることじゃ無いさ」

 勝手に他の部屋を漁らない所は流石と言うべきか。

 ……いやそれが普通な筈だ。
 最近はどうもそうじゃない連中が多すぎて、感覚がおかしくなっている気がする。

「それで、部屋の事なんだが、他の部屋に空きが無くてね。
 こんな感じで僕と相部屋になるけど良いかい?」
「宜しいのですか?」
「ああ……もし君が嫌だというのなら僕が店の方で……」
「いえ、霖之助様を差し置いて私が此処で寝るわけにはまいりません」

 ピシッと背筋を伸ばして居住まいを正す。
 尻尾まで綺麗に揃うのが実に彼女らしい。

「じゃ、ここで構わないかな?」
「はい……申し訳ありません、私の所為で気を遣わせてしまって」
「さっきも言ったかもしれないが、君が気にする必要は無いさ」

 ここまで丁寧だとこっちまで恐縮してしまう。
 それと同時に、この店に訪れる少女達もこれぐらいであれば……と高望みをしてしまう。

「それで、僕を捜していたようだけど、何か用があるんじゃないかい?」
「はい、お風呂の準備が整いましたので、呼びに参りました」
「ありがとう。
 それじゃ、先に入らせて貰おうか」




 湯飲みに口を付け白湯を一口頂く。

「それにしても」
「はい?」

 実は寝る前に緑茶を飲むのはあまり良くない。

「思いの外、式というのは扱いが難しいものだね」
「ふふ、霖之助様にとってはそうかもしれませんね」

 緑茶に含まれるカフェインという成分が、覚醒作用や利尿作用をもたらすのだ。
 珈琲ほど強くは無いが、寝る前であれば出来るだけ避けたい。

「やはり君ほどの式となると僕では力量不足という訳だ」
「いいえ、それは違いますよ」
「そうなのかい?」

 顔を上げ、藍の顔を正面から見つめる。

「霖之助様はどうして式を使いたいと思ったのですか?」
「それは……」

 負けじと返された、彼女の目線から思わず目を逸らし白湯を啜る。

「ただ『何となく』ではないですか?」
「……そんな事は無いさ」
「あら、そうですか」

 澄ました顔で白湯を啜る。
 どうやら彼女は全てお見通しの様だ。

「主の言葉は式にとって至上命令であり、力の源であり、それが式の全てです」

 湯飲みから口を離した藍がぽつりと呟く。

「ですから、霖之助様。
 もし霖之助様が式を使われる様になったら」

 先程よりも更に力強い目で。

「その子には『何となく』では無く、しっかりとした命令を与えて頂けないでしょうか?」
「……覚えていたらね」

 確証のない約束はしない。
 持ち上げて落とすぐらいなら、最初から期待させてはいけないのだ。

「ありがとうございます」

 それでも、彼女は感謝の言葉を口にする。
 ……まぁ、少しばかり努力するというのも悪くはない。

「……少しその子が羨ましいですね」
「うん?何か言ったかい?」
「はい?」

 何か呟いたように聞こえたが、どうやら気のせいだったようだ。

「さて、そろそろ寝ようか」

 残りの白湯を一気に飲み干し、席を立つ。

「はい、お休みなさいませ」
「藍、君はどうするんだい?」
「明日の準備を整えてから床に入ろうかと思っています」

 よくもまぁ働くものだ、と心の底から関心する。
 まだ風呂にも入って無いだろうに。

「あまり無理せず、早く寝てくれよ?」
「はい、畏まりました」
「それじゃ、お休み」




 昼食を取り終えてからのんびりと店で客が訪れるのを待つ。
 朝からストーブの上に置いていた薬缶に水を継ぎ足そうと、土間に向かっていたのだが。

「おや?」

 縁側に座り込んでいる藍の姿が目に入る。

「何をしているんだい?」
「はい、天気が良いので尻尾の手入れを、と思いまして」

 額に手をかざして空を見上げる。
 なるほど、この時期にしては珍しく良い天気だ。

「こうも天気が良いと気持ちいいな」
「そうですねぇ」

 相づちを打ちながら一房ずつ丁寧にブラシで梳いていく。
 なるほど、いつも尻尾がフサフサなのはこうやってこまめに手入れをしているからか。

「霖之助様?」
「うん?」
「いえ何か私に用があるのでは無いでしょうか?」
「いや……」

 何となく気まずくなって尻尾から目を逸らす。
 身だしなみを整えている所をジロジロと見続けるのいうのも失礼だろう。

「……あ、そうだ。
 霖之助様、私の尻尾を梳いて下さいませんか?」
「良いのかい?」
「はい、付け根の辺りは手が届きにくいので、どうしても雑になりがちでして……。
 宜しければ、お願い出来ますか?」
「それじゃ、失礼するよ」

 ブラシを受け取ってから後ろに座り込み、恐る恐る尻尾を手に取り梳いていく。
 毛皮としてなら幾度と無く触ったことがあるが、血の通っている尻尾というのは初めてかもしれない。

「霖之助様、もう少し強くしても構いませんよ」
「そうは言うがなかなか……」

 これが髪だったならば、どのくらいの力加減で梳けばいいか分かりやすかっただろう。
 けれども僕は尻尾を持っていないので、どの程度の強さで梳けばいいのか、とんと見当が付かない

「残りは6本。
 早く梳いて下さらないと、日が暮れてしまいますよ?」
「あまり急かさないでくれ」
「ふふっ」

 彼女の笑い声に合わせて揺れる尻尾からは、温かな陽の匂いがした。




「…んの……さ…」

 誰かに何処からか呼ばれる感覚。

「霖之助様」
「ん……」
「そろそろ起きて下さい、風邪を引いてしまいますよ」

 ボンヤリとした頭で目を開けると藍の顔が視界に映る。
 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。

「すまない、重かっただろう?」
「いいえ、お気になさらず」

 気持ちよく眠れていたのは、彼女が膝枕をしてくれたおかげかもしれない。

「もうこんな時間か」
「……はい、時間です」

 尻尾を梳いていた筈なのだが、いつの寝たのか記憶が定かでない。
 4本目まではハッキリと覚えているのだが……

「んっ……はぁ、今日は一日店を放置してしまったな」

 立ち上がってから身体をほぐす。
 もっとも、客の気配がすれば藍が起こしてくれただろう。
 つまり……まぁそう言うことだ。

「――が止まって――ばいいのに」
「藍?」

 振り返ってから「もう一度」と言いかけて口を噤む。
 彼女の背後にはあの禍々しいスキマがぽっかりと口を開けていたのだ。

「森近さん、短い間でしたが大変お世話になりました」

 ああ。
 彼女が言っていた「時間」とはこの事だったのか。

「いや、僕の方こそ世話になりっぱなしですまなかったね」
「いいえ、森近さんの身の回りのお世話は、とてもとても楽しかったですよ」

 いつの間に変えたのだろうか?
 満面の笑みを浮かべる藍の頭にあるのは、僕が渡した髪飾りではなく、いつもの帽子。

「ただ……森近さんは、もう少し名付けのセンスを養って頂きたいですね。
 私にどんな名を授けて下さるのか楽しみでしたのに」
「……そいつは悪かったね」

 とはいえ、『八雲藍』にあやかる為のなのだから仕方がない。
 だが、今更ではあるけど。
 あの髪飾りの様にもう少し捻った名前にすればよかったかもしれない。

「本当は名前だけでは無く、森近の姓も頂きたかったのですよ?」
「それは……」
「ふふっ、冗談ですよ」

 名を与えるだけならまだしも、姓を与えて自分の物にするわけにはいかない。
 あくまで彼女は紫から借りているだけなのだから。

「それでは森近さん、失礼致します」

 ひとしきり笑った後、後ろ向きのまま地面を蹴る。
 あっと言う間にその姿が消えると共に、スキマが閉じた。

「ふぅ」

 この店を訪れる客や魔理沙や霊夢達。
 今までその場を共有していた者が帰った後に訪れるこの感覚。
 何度経験しても慣れるものじゃ無い。

「さて、そろそろ店を閉めるか」

 風も冷たくなって来たことだし、あまり長居はしたくない。

「うん?」

 先程まで藍が座っていた所に落ちている物を拾い上げる。

「持って帰っても良かったんだが……」

 桃色のビーズであしらわれた髪飾り。
 「犬蓼のようですね」と言っていたが、これは犬蓼で間違いない。

 恐らく彼女が最初に思い浮かべたのは……

「さて、とりあえず」

 ご飯でも炊いて、それから風呂に入って寝よう。




「ただいま戻りました」

 スキマの中で気持ちを切り替える。
 私は他の誰でもない、紫様の式だ。

「むー……」
「紫様?」

 ちゃぶ台に顎を乗せたまま不機嫌そうな紫様に声をかける。

「藍」
「はい」
「霖之助さんと楽しそうだったじゃない」
「一体どこまで見ておられたのですか……」

 やましいことをしていた訳ではないがドキリとする。

「楽しそうに夕食を食べてた所までよ!
 なんで私の時と違ってあんなに楽しそうなのよー」
「と、言われましても……」
「これじゃ藍を貸して私の好感度を上げる作戦が台無しじゃない!」
「はぁ……」

 だからあっさりと私を森近さんの所へ預けたのですか。

「まったく、霖之助さんの好みに合うように式を組むんじゃ無かったわ!」

 嗚呼、矢張り。
 森近さんに対して、妙に親近感が湧くと思ったら。

「ふーんだ」
「紫様、拗ねないで下さい」
「拗ねてないわよー」

 それでも。

「藍」
「はい」

 あのときに感じた、この想いを。

「お腹が空いたわ」
「畏まりました」

 私は忘れない。
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  1. 2011/05/31(火) 22:59:59|
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