pixivに投稿してたお話。
友達以上恋人未満』というのが私のアリ霖。異論は認める。
バターと買い物についての考察はかなり適当なので軽く受け流して頂ければ幸いです。
「この辺で良いかい?」
「ええ、そこにお願いできるかしら」
魔法の森にある一軒家。
その家主にお買い上げ頂いた物がぎっしりと詰まった、一抱えほどもある大きな箱を床に置く。
一つ一つは軽い衣服とは言え、それなりの重さになるのだから侮れない。
なにより、この量だ。
重さよりも、抱えて運ぶ事に一苦労する。
「ごめんなさい、こんな所まで付き合わせて」
「なに、これぐらいおやすいご用さ」
本来ならアリスの操る人形達の数を揃えれば、こうして僕がここまで運ぶことも無かっただろう。
だがしかし、彼女が想定していた量よりも多くなってしまった場合はどうすれば良いのか。
「まさかこんなに掘り出し物があるだなんて」
「ああ、霊夢が大量に持ち込んできてね。何でも神社のあちこちへ大量に落ちていたらしい」
『お酒や食べ物だったら良かったのに』と、衣服に一切の興味を示さないところが実に彼女らしい。
持ち込んできた衣服の半分は霊夢のツケと相殺し、残りの半分はそれなりの値段で買い取りをさせてもらった。
もしかしたら今頃はそのお金を使って神社で宴会を開いているのかもしれない。
「へぇ、そうなんだ」
こちらもこちらで、外の世界の生地に興味はあっても、衣服が現れた事自体に興味は全く無いらしい。
「あーなんか色々買っちゃったからスッキリしたわ」
そして白く、細い腕を伸ばし身体をほぐす仕草をするアリスを見てふと、外の世界の雑誌を思い出す。
人が『買い物』を行うときに、大きく分けて二つの方向性にわかれるというのだ。
一つが『良い物を手に入れたい』
もう一つが『良い買い物をしたい』
本来、買い物というのは『良いものを手に入れる』と、いう欲求を満たすことで『良い買い物をする』と、いう欲求が満たされる。
しかし時として、前者の欲求よりも後者の『良い買い物をしたい』欲求を満たそうとする行動を起こす。
今回アリスがとった行動は正にその通りなのだろう。
無論、彼女は人間では無いがこの様子を見る限り、欲求に対する行動というのは基本的には変わらない様だ。
「ふぅ……ごめんなさい、霖之助さん。ここまで運んで貰っちゃって」
「なに、これも仕事の内さ、気にすることは無い」
こちらもそれなりに儲けさせて貰ったのだ。
それに元々、こうしてお客の元に商品を配達するのも、商人としての仕事の一つだ。
もっとも、ここ最近は外に出ることも少々縁遠くなっている感は否めない。
「それでも、ありがとう。少し待ってて貰えるかしら?いまお茶を入れるわ」
「ああ、すまない」
そう言い残しそのまま奥の部屋へと姿を消す。
普通なら客に椅子の一つや勧めるものだが、僕のことなど微塵にも気にする様子を見せない。
とはいえ、僕も彼女の家を訪れるのはこれが始めてという訳では無い。
勝手知ったる何とやら。
いつも通りにいつも通りの椅子へいつも通りに座ろうとし――いつも通りの違和感を覚える。
「ん……」
誰かに見られている。
そう。
アリスの家を訪ねると、幾度となくこの感覚を覚えるのだ。
無論、その正体も知っている。
だが知っているだけで、決して慣れるものではない。
椅子を引く手を止め、その視線の大元へとおもむろに歩み寄る。
そこにあるのは、ごくごくありふれたガラス戸付きの棚。
そして、ガラス越しに飾られている数々の人形達。
これらの一つ一つがアリスの手によって造られたものなのだ。
「ふむ……」
全く同じ様に見えても、意匠が若干異なっていたり、髪を飾るリボンの配色が異なっていたりと、実に芸が細かい。
だが、それもよくよく見ると所々が解れていたり、本体に傷がついていたりする人形がちらほら見える。
それなりに使われている、という事なのだろうか?
ふと、その傷が気になり、指先でスカートをつまみ上げようとし――
「レディに何をしているのかしら?」
スカートの持ち主である人形に手を止められてしまった。
「おっと、これはこれは。大変失礼しました」
「もう霖之助さんったら。ほら、こっちに来なさい。え?なになに?ふんふん……」
アリスに呼ばれた人形が僕から離れ、ほんのりと湯気が立つティーセットを置く彼女の側に近寄る。
そしてその人形がアリスに耳打ちする仕草を見せ、彼女もそれに呼応するように相づちを打つ。
「あらら、霖之助さん。この子、相当おかんむりの様よ。『ゆるさないー』ですって」
残念そうに首を振るアリスと、両手を上に振りかざして、怒りを露わにする『彼女』。
表情を変えることが出来ないただの人形なのに、まるで生きているかのように豊かな感情を見せてくれる。
無論、これらは全てアリスが操っているもので、人形が怒っているように見えるもの彼女の演技なのだ。
これもアリスらしい持て成しの形ということなのだろう。
それに僕自身も、彼女の人形劇に付き合うのも吝かではない。
「でしたら、こちらの外の世界のお菓子をお納めください」
そして、滅多にすることの無い商談用の笑みを浮かべ、懐から一つの缶を取り出し彼女らの目の前へと差し出す。
「あら、それは何かしら?」
「バターをたっぷりと使ったクッキーでございます。幻想郷ではなかなか手に入らない一品ですよ」
「まぁ、それは本当に珍しいわ」
バターという単語に一瞬だけ素に戻って驚くアリス。
それもそうだろう。
幻想郷ではあまり手に入れることが出来ないのだらか驚くのも無理はない。
全く無い訳では無いがいかんせん流通量が少ないのだ。
しかし、それでもアリスが人形の操作を怠ることは無い。
その証拠に『彼女』は両手を握って物欲しそうにこちらを見ている。
「うん、そう。結構珍しいものよ。どうする?」
再び人形と相談を始めるアリス。
この舞台に台本などというものは全く無い、けれども筋書きは確かに存在している。
「ええ、そう分かったわ。『いいよ』ですって。良かったわね、霖之助さん」
だから『彼女』に許しをもらえるのは、筋書き通りなのだ。
「ところで……何でそんな物を持ち歩いているのかしら?」
「どうせ君のことだからティータイムを設けてくれるだろう?だからそのお茶受けに、と思ってね」
「はぁ……もし私が用意しなければどうするつもりだったのかしら」
「その時はその時さ。現に君はお茶を用意してくれた。それで良いじゃないか」
「あーはいはい」
あきれた表情でカップに紅茶を注ぐアリスを横目に、先ほど取り出したクッキーの封を切る。
「でも何でこの子達のスカートを……はっ!もしかし霖之助さんはこういう子達が好みなのかしらっ」
「……まだ続くのかい?」
カップを運んできてくれた『彼女』が、今度は恥ずかしそうに顔を押さえる。
「あら、こういうのはお気に召さないかしら?」
「見るのは好きだけど、演じるのはあまり好みではないね」
そんなやりとりを経て、ようやく落ち着いて席に着くことが出来た。
「それで、霖之助さんはどんな女の子が好みなのかしら?」
「どんな、と言われても困るんだが」
クッキーをつまみ、口の中へと放り込む。
サクサクした触感と、バターの香りが口いっぱいに広がる。
「うーんそうね……」
カップを傾け琥珀色の液体を口の中へと流し込む。
クッキーの甘みと紅茶の程良い渋みがよく合う。
「魔理沙や霊夢はどうなのかしら?普段の言動に少し難があるけど」
「あの子らは僕にとって妹みたいなものさ。言動よりも行動に難が多いけど」
無論、彼女らが僕のことを慕ってくれているのはわかる。
その気持ちを無碍にするつもりも無いし、しているつもりも無い。
だが。
「それに、彼女らは生粋の人間さ。僕としては是非とも、里で人間の伴侶を見つけて、幸せになってもらいたいと思っているからね」
兄貴分としてそう願うのは、ごくごく当たり前のことだろう。
もっとも、兄貴分より妹達が先に逝くというのは、少し皮肉なものだが。
「それなら里の半獣は如何かしら?半分人間っていう共通点があるでしょう?」
「ああ、慧音かい?彼女は少し苦手でね」
ふと、彼女が腰に手を当てて、怒っている姿が脳裏に浮かぶ。
いや、むしろ。
彼女が怒っている姿以外の記憶があまり無い。
「あら、意外ね。霖之助さんも元々は里に住んでいたのだし、同じ半人同士それなりに親しい間柄だと思っていたのだけれど」
「まぁ、それなりの付き合いはあったさ。でも僕が独立すると話したらひどく反対されてね。最後には『好きにしろ』言われてしまったよ」
そう、たしかこの時も慧音は怒って……いた筈だ、が。
「全く、どうして彼女がそこまでいうのか……って、どうしたんだい?額に手を当てて」
「……いいえ、ちょっと頭痛がね」
「風邪かい?ふむ、しかし魔法使いが病気に罹かるというのはあまり聞かないが」
「ええ、そういうのでは無いから。気にしないで」
軽く頭を左右に振りながらそう答える。
種族が違えば、それだけで種類や症状も異なる病に対処する術を僕は持っていない。
もっとも、彼女が大丈夫というのだから、これ以上気にかけても無意味だろう。
「こほん。じゃあ、お寺のナズーリン、だったかしら?彼女はどうなのかしら?ここ最近よくお店を訪れるらしいじゃないの」
「ほう、よく知ってるじゃないか」
「だって魔理沙が私の所へ来ては『ネズミが~、ね・ず・みが~』ってよく愚痴るんだもの」
二つ目のクッキーを紅茶で流し込む。
いやはや、こいつを持ってきて正解だったかもしれない。
美味しいお茶には、やはり美味しい茶菓子を組み合わせるべきだろう。
「商談に熱中するのも悪くは無いと思うのだけれど、たまには魔理沙の事を構ってあげたらどうかしら?」
このクッキーに見合う腕を持つのはアリスと、紅魔館のメイド長である咲夜ぐらいだろうか。
「って、まぁ私が口を出す事じゃ無いわよね。それで、彼女はどうなの?」
「なにがだい?」
はて、何の話だったかと記憶をたぐり寄せる。
「ああ、そうだな……確かに、ナズーリンは聡明だし、面白い道具や貴重な物をよく持ってきてくれるよ」
それに何かと僕の興味を引く物を持ち込んでは、色々な議論を交わすのを楽しんでいる節がある。
彼女と話していて飽きないのは確かなのは間違いない。
「だが、彼女はあまりにも抜け目がなさ過ぎてね、ずっと一緒にいると、気の休まる時が無いよ」
商談の時ならいざ知らず。
ただの雑談ですら虎視眈々とこちらの様子を窺い続けている様な錯覚を覚えるのだ。
彼女の上司である毘沙門天の弟子よりもよっぽど猛獣らしい雰囲気がある。
「じゃ、あのスキマ妖怪……は」
「ああ、概ね君の思っているとおりで間違い無い」
語尾が小さくなっていくのは、僕の顔色から察してくれたのだろう。
もっとも、外の世界に詳しい彼女の話はとても興味深い。
だから一度ぐらい正面から色々な話をしてみたいとは思うのだが……
いかんせん、何処からともなく現れては、いつの間にか居なくなってしまうのだからどうしようもない。
「それなら霖之助さんの理想条件は何かしら?」
「そうだね……」
残り少なくなった紅茶をカップの中でグルグルと回す。
白いカップの中で揺らめく琥珀色の液体をジッと見つめ、物思いにふける。
「ゆっくりと落ち着いてお茶が飲めるのであれば誰でも構いやしないよ。出来れば緑茶で」
「あら、霖之助さんは緑茶党だったのね」
そして最後の一口を飲み干し、カップを空ける
「霖之助さん」
「なんだい?」
「紅茶のお代わりは如何かしら?」
「ああ、お願いするよ」
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- 2011/05/31(火) 23:06:05|
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