マヨヒガへの道

東方関係、主に霖之助と少女達のお話。時々旅行記。

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春来たりて冬が行く

pixivに投稿してたお話。
某氏の素敵なイラストを見て。
ごめんなさい(土下座






 幻想郷に春が来る。
 妖怪、人間、妖怪。

 生きとし生けるもの皆が喜びを持って迎える季節。
 もう厳しい寒さに怯えて暮らすことが必要のない季節。
 そして、私にとっては長いながーい眠りに付き始める季節。


 本当はもっと早く眠りに付かなきゃいけないのかもしれない。
 けれども。

 彼と共に過ごす時間は本当に楽しくて。
 彼と共に飲むお酒はとても美味しくて。
 彼と互いに触れ合わせた肌は本当に暖かで。

 一面が雪に覆われた色のない世界。
 それでも、私にはとてもとても、鮮やかな世界。

 どうにか騙し騙し、ずるずると過ごしてきたけれど、それも今日でおしまい。

 私一人のわがままで自然の摂理をねじ曲げることは許されない。
 巫女よりも、スキマ妖怪よりも、もっと大きな、見えない力で。
 きっと私は役目を終えさせられるのだろう。

 だから、これは。
 私の最後のわがまま。




「ねぇ、少し散歩しない?」

 そう言って出無精の彼を表に引きずり出す。
 口では寒いだのと文句を言うけれど、不満そうな顔はしていない。
 なんだかんだ言いながらも付き合ってくれる彼はとても優しい。

「今年は初日の出が見られなくて残念だったわ」
「ああ、あれはとても残念だったよ。まさか言い出しっぺが寝坊して一人で見る羽目になるとは思いもしなかったけど」
「あら、そうだったかしら?」
「それに寒い中やっとの思いで家に戻ると、その言い出しっぺがこたつに入ってしれっと挨拶をしてくるのだから。ほんと参ったよ」
「新年最初の挨拶ですもの、とても大事なことよ」
「そうかい……それにしてもあの耳は一体どこから」

 だって貴方はあのとき乗り気じゃ無かったじゃない。
 だから私はてっきり行かないものだとばかり思ってたのよ?
 だから、あのとき起きてきたばかりの貴方を驚かせようとしてたのに。

「えいっ」

 なんて、思いは胸の中。
 芽吹いたばかりの若葉が生い茂る原っぱへと飛び込み、大の字になって寝転がる。

「はぁー春って言うのも悪くは無いわねぇ」
「まったく、雪女らしくない事を言うね」
「何よー私だって春を楽しむ権利があるはずじゃないの?ほらほら、貴方も寝転がってみなさいよ」
「はいはい」

 やれやれと言った感じで私と同じように大の字になる。

「ねぇ」
「ん?」

 互いに伸ばしたギュッと手を握る。
 寝転がる私たちの上を風がサァッと通り抜ける。
 冬に生きる妖怪だけど、春風が心地よいのは自然と共にある者の本能なのかもしれない。

「あ、そうだわ」

 繋いだばかりの手を離し、身体を起こす。

「ちょっとやってみたい事があるんだけど」




「これが君のやってみたい事かい?」
「ええ、そうよ。もしお好みならさむーい冬に雪原でやってもいいのだけど?」
「それはきっと天にも昇る心地よさだろうね。でも僕にはまだ少しばかり早いので遠慮させてもらうよ」

 正座した私の膝の上には少しごわごわした感触の髪をした彼の頭がのっかっている。

「春ね」
「ああ、春だね」

 これからもきっと、こんな穏やかな日が増えてくるのだろうと思う。
 だから、もう。
 私に残された時間はあまり多く無い。

「ねぇ、霖之助さん」
「……すー」
「もう……」

 せっかく私が決意したというのに。
 ほんと、この人はいつまでたっても変わらない。
 季節と共に移ろいゆく私とは違って。

 きっと。

 八重桜が散っても。
 紫陽花に泣かれても。
 向日葵に睨まれても。
 彼岸花に誘われても。
 金木犀に寄られても。

 ずっと、いつまでも。
 この人は変わらないのだろうと思う。

 だから、また変わらない貴方と会えることを信じて。
 そっと彼の顔を覗き込み……




「それが彼女の言葉かい?」

――コクコク

 いつの間にか傍らにいたリリーが、拙い口調で彼女の最後の言葉を僕に伝えてくれた。
 まったく。
 僕の事を考えずに勝手なことを。

「はぁ」

 思わずため息がでる。
 彼女が居なくなることはわかりきっている事だし。諦めも付いている。
 けれども、一つだけどうしても我慢なら無いことがある。

「どうして僕に黙って去ろうとするんだい?」

 彼女はいつもこれだ。

 どうして、僕にも別れの挨拶をさせてくれないのか。
 どうして、僕と最後の言葉を交わさせてくれないのか。

「はぁ」

 二度目のため息。
 ため息をすれば幸せが逃げていく、と言うのは嘘だろう。
 本当は幸せが逃げるのではなく、幸せが逃げたからため息をつくんじゃ無いのだろうか?

「まったく」

 次こそは絶対に。
 そんな思いを胸に、傍らにリリーに言葉を投げかける。

「こんな事に付き合わせて悪かったね」

 ポンポンと頭を撫でる。
 いつもなら嬉しそうな顔をするのだが、今日はどうしてか顔色がすぐれない。

「……!」
「わっと……」

 僕の手を振り払い、ギュッと腰に抱きついてくる。
 リリーが何を言いたいのか僕にはわからない。
 レティが居れば彼女の意図を理解できる筈なのだが、最早それすら叶わない。

「はは……ありがとう」

 でも、どうしてだろうか?
 僕には、彼女が励ましてくれているような気がして、思わず感謝の言葉を口にする。

「いつものことさ、彼女らしいと言えば彼女らしい」

 さぁ、いつまでも気落ちなどしていられない。
 春の陽気に誘われて、人妖達が騒ぎ始める。
 彼らの調子に付いていくつもりは毛頭無いけれど、せめて流されないようにしなければなるまい。

 そして、今から少しずつ考えよう。
 次に逢うときに。


 彼女に何て言ってやろうか?
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  1. 2011/05/31(火) 23:05:26|
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